日時:平成30年4月5日(木) 11:00~11:40
場所:奏楽堂
式次第
1.奏楽
2.入学許可
3.学長式辞
4.役員等紹介
5.奏楽
4月5日(木)、11時より奏楽堂にて平成30年度入学式が挙行されました。音楽学部 廣江理枝教授のパイプオルガンによる「前奏曲 変ホ長調 BWV552-1(J.S.バッハ 作曲)」が奏でられ、晴れやかな雰囲気のなか式は幕を開けました。
今年の新入生は、学部481名、大学院修士課程413名、大学院博士後期課程61名、大学別科30名の総勢985名。
式辞に先立ち、澤学長のヴァイオリン、音楽学部 川崎和憲教授のヴィオラ、河野文昭演奏藝術センター長(音楽学部 教授)のチェロ、音楽学部 吉田秀准教授のコントラバス、大学院音楽研究科修士課程 岸本萌乃加さんのヴァイオリンの共演で「合奏協奏曲『四季』より『春』(A.L.ヴィヴァルディ 作曲)」が演奏されると同時に、ステージ上のスクリーンには、大学院映像研究科が同曲の音楽世界を映像化したアニメーションが東京藝術大学COI拠点により上映されました。
式辞では、様々な芸術分野を有する総合芸術大学ならではの環境を生かして、自身の専門分野のみならず他分野との新しいチャレンジを目指してほしいと新入生への期待を述べるとともに、芸術の持つ力は人間には必要不可欠であることを訴えていかなければならず、科学や医学との結びつきによって芸術の新しい価値を見出すことで、学生や卒業生の活躍の場をプロデュースしてゆくことが大学に課せられた使命であると熱い思いを語り、新入生を激励しました。
閉式は音楽学部 廣江理枝教授のパイプオルガンによる「フーガ 変ホ長調 BWV552-2(J.S.バッハ 作曲)」が奏でられ、照明に彩られたパイプオルガンの美しさと演奏の壮大さで新入生たちの広がる未来を祝福しました。会場は拍手と喝采に包まれ、朗らかな雰囲気のなか閉式しました。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今日ここに皆さんを東京藝術大学の一員として迎えられたことを大変嬉しく思い、教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。ご列席のご家族の方々にも、心よりお慶び申し上げます。
ただいま音楽学部器楽科 弦楽専攻の先生方や大学院生との共演でお聴きいただいたのは、ヴィヴァルディの合奏協奏曲「四季」から「春」の第3楽章です。ヴィヴァルディの「四季」は、クラシック音楽の中でも、もっともポピュラーな名曲で、ご存知の方も多いと思いますが、昨年、本学の大学院映像研究科や東京藝術大学COI拠点が、一般の方々から広く支援を集めるクラウドファンディングという手法でこの「四季」にアニメーションを付けるというプロジェクトに挑戦しました。今、ご覧いただいた「春」をロシアのアンナ?ブダノヴァさんが、「夏」をエストニアのプリート?パルン、オルガ?パルンご夫妻が、そして「秋」を、映像研究科の第1期生で、ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞の和田淳さん、「冬」をカナダのテオドール?ウシェフさんといったアニメーションの世界で大活躍の気鋭のクリエイターの皆さんにそれぞれ製作を担当していただき、11月に北九州市で世界初演、そして年末にはこの奏楽堂で東京初演が実現しました。今年2月にはスペインの映画祭でも公開され、大きな反響を呼びました。東京藝大が世界に向けて発信したこのアニメーション付きヴィヴァルディの「四季」は、映画やアニメーションの本場アメリカでも、大きな関心が寄せられているという事で、美術、音楽、映像そして国際芸術創造研究科を加えた4分野を持つ総合芸術大学ならではの他分野とのコラボレーションの一例です。
皆さんは、これまで東京藝術大学入学を目指してそれぞれの専門分野一筋に集中して研鑽を積んでこられたと思います。そしてその姿勢は、入学後も、さらには卒業後も続けてゆくべきものですが、同時に、各分野の一流の先生方や学生の集まる東京藝大ならではの環境を生かし、他分野との新しいチャレンジも目指して欲しいと思います。
昨年度、東京藝大は創立130周年を迎えました。それを機に、これから10年の新しい藝大の目指すべき姿を「NEXT 10 Vision」 として昨年の記念式典で発表しました。「革新的」であること。?多様性?があること。?国際的?であること。明治20年創立の東京美術学校、東京音楽学校が培ってきた130年の伝統を大切に継承しつつ、一方で、伝統とは、常に革新的なものが多様な環境の中で育てられ洗練された結果であるという事を忘れないでください。
今年1月に130周年記念イヴェントのクライマックスともなった五大陸アーツサミットでは、7か国8つの芸術系大学の学長や学部長が集まり、「21世紀の藝術大学はどこに向かうのか?」というテーマでシンポジウムが行われ、その中での共通の話題は「芸術と科学あるいは医学との融合」という事でした。
とかく芸術は生きてゆくために必須のものであるという感覚ではとらえられず、贅沢品、嗜好品と同じような扱いにされてしまうことが多いのですが、芸術の持つ力が、人間が人間らしく生きるためには必要不可欠であるということを私たちは広く訴えてゆかなければなりません。
私自身もArts Meet Science (芸術と科学の出会い)をAMSプロジェクトと名付け、科学や医学との結びつきにより、芸術の価値をよりわかりやすく、見える形にしたいと考えています。他にも東京藝大では、伝統的な文化財修復技術と、高度なデジタル技術の融合による「クローン文化財」や、障がい者と健常者が共に音楽や芸術を楽しめる空間を提供する「障がいとアーツ」、「芸術X福祉」の視点で、多様な人々が共に生きる社会環境の創出を目指す「Diversity on the Arts Project(通称:DOORプロジェクト )」など様々な実験的な取り組みが行われ、社会的にも大きな評価を得ています。そして、芸術の新しい価値を見出すことによって、学生や卒業生の活躍の場をプロデュースしてゆくことが大学に課せられた使命であると考えています。
この上野公園内には、東京国立博物館、科学博物館、西洋美術館、東京都美術館、東京文化会館そして上野動物園など、さまざまな文化施設が集まり、日本の文化芸術の集積地でもあります。皆さんが手にした藝大の学生証の提示があれば、大学美術館はもちろんの事、国立博物館、科学博物館、西洋美術館に無料で入館できたり、数に制限はありますが、奏楽堂での演奏会にも学生招待枠が設けられています。美術専攻の学生が音楽会に足を運び、音楽専攻の学生が美術館や博物館を訪れる。横浜キャンパスと千住キャンパスとの距離はあっても、映像研究科と音楽環境創造科とのコラボレーションは、すでに盛んにおこなわれていると聞きます。そしてその異分野をつなぐアートプロデュースを国際芸術創造研究科が担うといった、多彩な異分野交流につながることを期待しています。ちなみに学生証では、上野動物園には入れてもらえません。動物園には年間パスポートがお勧めです。4回行けばもとは取れます。パスポートがあればパンダを見るときも待ち時間なしで園内に入れます。
さて、2020年のオリンピック、パラリンピック東京大会が2年後に迫っていますが、オリンピック、パラリンピックは、スポーツの祭典であると同時に文化芸術の祭典でもあります。東京藝術大学に寄せられる期待は極めて大きなものがあり、皆さんがその活躍の中心的存在となることでしょう。
これからの学生生活での新たな出会いによって、皆さんの豊かな感性が更に磨かれ、東京藝大の新たな伝統に繋がってゆくことを期待して私の式辞といたします。
平成30年4月5日 東京藝術大学長 澤 和樹