平成29年度 卒業式(3/26)-「オール藝大」でいこう-
日時:平成30年3月26日(月) 11:00~12:10
場所:奏楽堂
式次第
1. 奏楽
2. 学位記授与(学部卒業生)
3. 学位記授与(大学院修了生)
4. 修了証書授与(別科生)
5. 卒業?修了買上作品認定書授与
6. サロン?ド?プランタン賞授与
7. アカンサス音楽賞授与
8. 大学院アカンサス音楽賞授与
9. ラリュス賞授与
10. 学長式辞
11. 役員等紹介
12. 奏楽
3月26日(月)11時より奏楽堂にて平成29年度卒業?修了式が行われました。
はじめに、音楽学部 大塚直哉准教授による奏楽「フランス組曲第5番から『アルマンド』、『クーラント』」(ヨハン?セバスティアン?バッハ作曲)が演奏され、チェンバロの優雅な調べが会場を包み込みました。
続いて澤和樹学長から、卒業生、修了生それぞれの総代に学位記が、別科修了生総代に修了証書が授与されました。また、卒業?修了買上作品認定書の授与および各賞の授与が行われました。
その後、ステージ上のスクリーンに卒業生たちの在学中の思い出の写真が映し出されました。入学当時の懐かしい姿や、力を合わせて作り上げた藝祭など、青春のページを飾った数々の写真に笑いと歓声が沸き起こりました。
学長式辞では、「卒業後は行方不明者多数」と言われる藝大の卒業生の特性に触れ、大学と卒業生がお互いに助け合い、「オール藝大」で日本の芸術文化を発信していくことの必要性が述べられました。また、卒業生の坂崎千春さんが製作した学長ゆるキャラ「カズキチャマ」が発表されると大きな拍手で迎えられ、「卒業後もどのように社会に貢献してゆけるのかを探し求める旅を続けてください」と激励の言葉が贈られました。
最後は、音楽学部 大塚直哉准教授(チェンバロ)と櫻田亮准教授(テノール)、萩原潤准教授(バリトン)による、「西風が帰り」(クラウディオ?モンテヴェルディ作曲)が晴れ晴れしく演奏され、卒業生?修了生たちの旅立ちを祝福しました。天候にも恵まれ、満開の桜に包まれたうららかな卒業式となりました。
皆さん、卒業、修了おめでとうございます。
そして各賞を受賞された皆さん、おめでとうございます。
皆さんの中には、今日、藝大を巣立って社会の一員となる人もいれば、修士課程や博士課程に進学あるいは留学などで、さらに自分の専門を極めるために研鑽を続ける人もたくさんいると思います。
一昨年の秋に、『最後の秘境?東京藝大』という本が12万部を超えるベストセラーになり、その影響もあってか、東京藝大をフィーチャーしたテレビ番組や、新聞、週刊誌などの特集が相次ぎ、昨年の藝祭では8つのテレビ番組から取材依頼がありました。お蔭で私などは「サンバを踊る学長」としてちょっとした有名人になりました。その「最後の秘境」のキャッチコピーとして「入試倍率は東大の3倍」とか「卒業後は行方不明者多数」という文字が踊りました。入試倍率のことはともかく、行方不明者多数というのは、話としては面白いですが、藝大学長としては、笑ってすまされる問題ではありません。
そこでそういわれる理由を考えてみました。
一つには、東京藝大の前身である東京美術学校、東京音楽学校時代からの伝統として、大学を出てすぐに就職するのは負け組といったような風潮がありました。そもそも藝術というのは自らのアイデンティティ(つまり自分が何者であるか)を探し求める終わりのない旅だと思います。美術家あるいは音楽家として、卒業後も会社や組織の一員としてではなく、独立した一人の芸術家として自らが選んだ生き方で道を極めることを潔しとしたのでしょう。
フリーランスという言葉が使われますが、このフリーランスとはフリー(自由な)、ランス(英語で槍)の事で、フリーランスというのは中世のヨーロッパで、どこの国の軍隊にも属さず、一匹狼的に生きている騎馬兵を指した言葉なのだそうです。自分の持っている特殊な才能、磨き上げた腕前を信じて生きてゆくというフリーランスの姿勢は、はたから見ると、職にも就かず、家でゴロゴロしているフリーターやニートと似ているようで、実は大違いなのです。ただ、フリーランスの場合は、大学としては卒業後の行方をトレースしにくいため、結果的に行方不明者が増えることにつながるのだと思います。
もう一つの理由として思い当たるのは、これまで、大学と卒業生との関係が、それほど親密な関係とは言えなかったということがあると思います。東京藝大は今年度を創立130周年と位置付けて、様々な記念イヴェントを行うとともに、これからの新しい藝大の進めてゆくべき姿をNext 10 Vision として昨年10月の記念式典で発表しました。「革新的」であること。?多様性?があること。?国際的?であること。そして、同時に、大学がもっと卒業生と緊密に連携して、お互いが助け合える環境を作ってゆきたいと考えています。
今年1月に130周年記念イヴェントのクライマックスともなった、五大陸アーツサミットでは、7か国8つの芸術系大学の学長や学部長が集まり、「21世紀の藝術大学はどこに向かうのか?」というテーマでシンポジウムが行われました。その中で共通した話題は「芸術と、科学あるいは医学との融合」という事でした。私自身もArts Meet Science (芸術と科学の出会い)をAMSプロジェクトと名付け、科学や医学との結びつきにより、芸術の価値をよりわかりやすく、見える形にしたいと考えています。
他にも東京藝大では、伝統的な文化財修復技術と、高度なデジタル技術の融合による「クローン文化財」や、障がい者と健常者が共に音楽や芸術を楽しめる空間を提供する「障がいとアーツ」、「芸術と福祉」の視点で、多様な人々が共に生きる社会環境の創出を目指す「Diversity on the Arts Project(通称:DOORプロジェクト )」など様々な実験的な取り組みが行われ、社会的にも大きな評価を得ています。そして、芸術の新しい価値を生み出すことによって、学生や卒業生の活躍の場をプロデュースすることに繋がってゆく事を願っています。
昨年11月には、美術学部の卒業生や教員110名が、作品を寄付してくださり、チャリティ?オークションが行われ、その収益をもとに「東京藝術大学若手芸術家支援基金」が設立されました。また、年末には、音楽学部昭和48年度の入学生有志による卒業40周年記念のコンサートがここ奏楽堂で行われ、その収益が大学に寄付されました。卒業生による大学への協力ということでは、この度、デザイン科の卒業生で、JR東日本のSuicaのペンギンなどで知られる坂崎千春さんが、学長ゆるキャラ「カズキチャマ」を製作してくださいました。これから「くまモン」や「ふなっしー」に負けないような人気キャラクターに育ててゆきたいと思っております。
このように大学が卒業生の活躍の場を積極的に提供するなどサポートし、卒業生は母校や後輩たちを応援するというような関係を構築して「オール藝大」で日本の芸術文化を発信していこうではありませんか!
先ほど、藝大は伝統的に、卒業してすぐに就職するのは負け組といった風潮があると言いましたが、一方で、今は、アートやデザイン、音楽などとは無関係の一般企業や、これまで理工系を中心に人材を求めていたIT企業などから芸術的センスを持つ人材を藝大に求めてくるようになりました。テクノロジーの急速な進歩で、これまでの論理的思考だけでは行き詰まり、今こそ皆さんの感性や美的センスが注目され始めているのです。人工知能(AI)が、将棋やチェスの名人を打ち負かしたり、自動運転技術などの開発がどんどんエスカレートする半面、今後、人間の活躍の場や、職業が奪われてゆくという危機感もしばしば語られています。しかし私は、人間が人間らしくあるための最後の砦は、芸術の力であると信じています。どうか皆さんは、この東京藝術大学で学んだことに誇りを持って、どのように芸術の力で社会に貢献してゆけるのかを探し求める旅を続けてください。そして藝大は、その姿を見守って行きます。
皆さんの輝かしい未来に期待しています。本日は本当におめでとうございました。
平成30年3月26日
東京藝術大学長 澤 和樹